足し算芸術としてのアニメ(1)



2年間アニメを見つづけた。

特別な興味もなかったけど、YouTubeで「トップをねらえ!」(1988年、GAINAX)全話無料公開中とか言っていたので、本当に何気なく見たところこれがけっこう面白く、そっからずるずると見続けてしまった。

なぜアニメにハマったのかというと、アニメとは描いたものが全てである表現であり、それがとてもスリリングで面白いからだ。

カメラを回せばとりあえず何かは映る映画やテレビ番組とは違うし、何も建てなくてもなんらかの風景がそこにある建築とも違う、描かなければ何もない、白紙、という無慈悲さ。そして、何枚も描かないとぬるぬる動かないという泥臭さ、手抜き即バレのシビアな世界。

映画なら絵になるロケーションを探し、絵になる俳優に素晴らしい演技をしてもらえば、絵になる。もちろんそこにはカメラワークやロケハン、様々なディレクションや映像加工など映画に特有の努力がない限りいい絵は作れないのだが、とはいえ、俳優の力量だとか美しい夕焼けだとか、奇跡的なものが関わってくるのが映画だ。アニメだと、大事なシーンでのキャラクターの微妙な表情だとか、頬を照らす光だとか、舞い散る桜の花びらだとか街並みだとかも、描けばあるし描かなければない。足し算していくことでしか表現が成り立たない。奇跡も作らなければ起きない。

描いて描いて絵が動き、そこに声優が命を吹き込んで作る芸術。原理的に足し算である芸術。




この2年の間に、有名どころや名作を優先したとはいえけっこうな数見た。(興味がある人だけ下の小さな文字を見てください。)

トップをねらえ!1・2、エヴァ劇場版・新劇場版、初代マクロス・愛おぼ・7・ゼロ・F・F劇場版、ナデシコTV版・劇場版、攻殻機動隊SAC1・GITS・イノセンス、パトレイバー劇場版、ナディア、電脳コイル、時かけ、サマーウォーズ、ハルヒ1・2・消失、けいおん!1・2、まどマギ、あの花、イカ娘、秒速5センチメートル、ほしのこえ、輪るピングドラム、化物語、四畳半神話大系、とらドラ、電波女、うみねこ、禁書、レールガン、スカイクロラ、グレンラガン、それ町、フラクタル、クラナド・クラナドAS、ひぐらし、パプリカ、スチームボーイ、つみきのいえ、ラピュタ、コクリコ坂。さらに部分的に見たものを足すと、ぼくらの、らき☆すた、タイバニ、偽物、gdgd妖精s、禁書2、荒川、いろは、東のエデン、日常、FLCL。

ほとんどのものは何かしら面白かった。中でも特に気になったものについて、ここで紹介したい。

好きなアニメ紹介を兼ねつつ、アニメをめぐる表現について考えたことをまとめて書いていく。単純に、2年間の熱狂をありがとう、という気持ち。




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◯GAINAXの荒唐無稽で楽しいSFアニメ

『トップをねらえ!』1988年、原作:岡田斗司夫、監督:庵野秀明、制作:GAINAX OVA全6話

『トップをねらえ2!』2004~06年、原作:GAINAX、監督:鶴巻和哉、制作:GAINAX OVA全6話

『天元突破グレンラガン』2007年、原作:GAINAX、監督:今石洋之、制作:GAINAX TVシリーズ全27話




個人的な好みとして、明るく楽しい宇宙を舞台にしたSFというのが一番好き。そういう時、GAINAXの上記3作品は最高だ。

GAINAXの良さは、主要メンバーの大学生時代の自主制作である伝説的アニメ「DAICON4」(1983年、DAICON FILM)に凝縮されている。








(1)圧倒的クオリティーのメカ・戦闘・爆発、(2)セクシーな美女、(3)過去作品のパロディ・オマージュ、(4)バカバカしい感じ

この4つが魅力。今回は(1)にクローズアップしてみる。

たとえばアニメーターとしての庵野秀明が得意なのは爆発である。炎、煙、爆風の吹き戻しや無数の破片の飛び散り方のあまりの凄さに「庵野爆発」とも呼ばれるらしい。現在のアニメは「サザエさん」以外はセル画ではなくCGアニメだし、物理演算を使えばもっと簡単に物の動きを表現で来てしまうのだが、どうやって手描きで、戦闘機が地面に叩きつけられたときの爆発や、ロボットが放ったレーザーで都市が吹き飛ぶ描写を描いたのか、考えるだけで震えるほどすごいことだと思う。→http://www.youtube.com/watch?v=E3-8GstXOD8




アニメをなんとなく見ているうちは、ストーリーやキャラクターといったもので面白い面白くないと判断をくだす。もちろんそれで正しい。だが、これは全て人間が手で描いたものだと意識した瞬間から、「作画」ということのすごさに気づく。アニメーションとは、目が眩むような膨大な作業の積み重ねなのだ。そのかわりに頭の中のどんなイメージでも実現できる。

そしてすぐにわかることだが、頭の中のイメージを実現するためには、その映像をまず極小時間に分解しないといけない。どうやってビルが崩れるのか、走るときに人はどこの筋肉をどう動かしているのか、ロボットの変形の手順やその動力源はどうなっているのか。世界をじっくり見ないと何一つ描けない。光も重力も物理法則も描かない限り発生しない。ついでにカメラワークも、描いた絵によって事後的に規定されるのだ(なんという逆転現象)。




最初に挙げたオススメアニメを題材に、作画というものを見てみよう。これは『トップをねらえ2!』。





続いて『天元突破グレンラガン』。




魅入ってしまう。




アニメは足し算していくことで夢を現実に変える。それは、素晴らしい風景をフレーミングするピクチャーウィンドウが引き算的であることと真逆だ。そもそも完全なる無から作る。白い壁をみて喜ぶ建築好きはいるけれど、白い画面を見て喜ぶアニメ好きはいない。白い壁はどんなに抽象的に作っても、環境の中に置かれるがゆえ、表面の微細な凸凹やばらつき、それをなめるように照らす光、微妙なグラデーション、汚れ、壁の横に広がる景色との対比、、といった環境からの干渉が必ずあり、それがただの白い壁を美しくみせるのだ。一方、画面が白いというのは、本当に無しか表さない。「画面」というものは、環境から切り離されてあるものなのである。画面上が戦いの場である様々な映像芸術のなかでも、アニメはもっとも描き込まないと(足していかないと)輝かないのである。



というわけで作品紹介ではなく作画の話になってしまった。なのでちょっと紹介。



『トップをねらえ!』は庵野監督の初監督作品で、とても素晴らしいスポ根SF名作アニメ。その現代的続編『トップをねらえ2!』は緻密なSF設定をぶち壊す荒唐無稽さが魅力。トップは両作品ともエンディングの秀逸さで心に残る。『天元突破グレンラガン』はその流れの中で生まれた、荒唐無稽さとバカバカしさの極限にチャレンジした作品だ。まずロボットのデザインが筆舌に尽くしがたい阿呆らしさで素晴らしい。そして顔しかないロボットが他のロボットに突き刺さると操縦を乗っ取れるだとか、ロボットがロボットに乗り込み、そのロボットがさらにでかいロボットを操縦するとか、なかなか考えつかないくだらなさである。そして、敵を倒して、四天王を倒して、ボスを倒して、大ボスを倒して、、という少年漫画形式なので、武器もメカも技も爆発もどんどんエスカレートさせなきゃいけない。観客のもっと!もっと!という期待に全部答えてくれる。「時空烈断バーストスピニングパンチ」とか「可能時空軸一斉射撃」とかなんだよそれっていう。星を投げるのは朝飯前、投げた銀河が銀河に突き刺さる等、こちらの期待を裏切らない。28にもなってオススメしていいのかよくわからないけれど、オススメ。




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